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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)9号 判決 1972年7月13日

控訴人 和歌山相互銀行

理由

一、《省略》

二、ところで、未登記の建物所有者が登記簿の建物の表示の登記ないし固定資産課税台帳にその建物が他人の所有名義で登録されていることを知りながら、これを明示または黙示に承認したときは、所有権の保存登記または移転登記で他人の所有名義に登記がなされた場合と同様、建物所有者は、民法九四条二項の類推適用により、登録名義人がその所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三者に対抗することができないと解すべきである。(家屋台帳の登録について最高裁昭和四二年(オ)第一二〇九号、第一二一〇号同四五年四月一六日第一小法廷判決民集二四巻四号二六六頁参照)。けだし、昭和三五年法律第一四号による不動産登記法の改正に伴い、旧家屋台帳法は廃止され、登記簿の表題部の表示に家屋台帳の機能をいとなませ、家屋台帳を表題部の用紙に移記することになり(同法附則二条)また、市町村の固定資産課税台帳は、登記簿の表題部の表示の記載に基づき同一事項が記載されることになつており(地方税法三八二条一項、三項)、固定資産課税台帳の建物の登録所有名義は建物の表示の登記の所有名義と相互に一致する関係にあつて、未登記の建物については、これら公簿上の所有者の表示はひとしく第三者が所有者を認識するもつとも有力な手がかりたる社会的機能をいとなんでいること、登記ある建物についての登記簿上の所有者の公示に近いのであり、それら登記や登録における外観を信頼して利害関係に立つた第三者は、その外観の作出存続に寄与した所有者に対しいずれも保護さるべきであるからである。本件についてみるに、《証拠》によれば、昭和三六年頃区役所から係員が来て本件建物の検査が行われ、昭和三六年二月に本件建物が新築されたものとして固定資産課税台帳が作成され、前記張山幸吉の所有名義に登録され、同訴外人に固定資産税が課税されるようになつたところ、被控訴人はこれを知りながら、同訴外人名義で固定資産税を負担支払つてきたことが認められるから、被控訴人は、本件建物が他人の所有名義で登録されていることを知りながら、爾後において黙示のうちに承認したものであり、また、前叙のように、控訴人は大阪地方裁判所昭和四四年(ヌ)第一二一号事件の昭和四四年四月一六日付不動産強制競売開始決定により本件建物を差押えたもので、同年五月八日前記張鉉相名義に職権で所有権保存登記がなされたうえ、強制競売開始決定がなされているのであるから、控訴人が右強制競売申立をした当時においては、本件建物については、登記簿の表題部にその所有名義人として前記張鉉相が表示せられていた関係にあり、右強制競売申立に際しては、登記簿や固定資産課税台帳の閲覧等が通常行われるところであるから、控訴人としては、登記簿の表示の登記の所有名義や課税台帳の登録所有名義を信頼すべきは当然である。尤も、控訴人の主張によれば、固定資産課税台帳の登録所有名義を信頼した場合のみを挙示しているが、その趣旨とするところは、登記簿の表示の登記の場合も当然含めて主張しているものと解すべきは、以上の判断からも明らかである。そして、《証拠》を合わせて考察すると、控訴人は右差押当時右所有名義が不実であることにつき善意であつたことが認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。そうすると、被控訴人は、民法九四条二項の類推適用により、前記張鉉相が本件建物の所有権を取得しなかつたことをもつて、控訴人に対抗することができないものというべきである。以上に反する被控訴人の主張は採用することができない。

三、以上説示したところによると、本件建物が前記張鉉相の所有に属さず、被控訴人の所有であることを理由に、前記強制執行の排除を求める被控訴人の本訴請求は、理由がないから失当として棄却すべきものである。よつて、これと異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却する

(裁判長裁判官 鈴木敏夫 裁判官 西山要 奥輝雄)

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